寒さがきついほど 春はすぐお隣り
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


ひゅんっと、その先端が一気にぶん回された勢いで、
空間が鋭角に引き裂かれ、
それを埋めんとなだれ込む風籟が 悲鳴みたいな唸りを上げる。
まだまだ四肢も肢体も成長途上の彼女らが手にするは、
特殊警棒や伸縮式のステンレスポールであり。
扱う主の安全をこそ考えてだろう、
持ち手や先端にはラバーが巻かれてあって。
よって、研ぎ澄まされた太刀の切っ先でもないというに、
意識して見据えていても見失うほどの速さと冴えにて、
宙を翔って 空を切り裂く凄まじさよ。
それほどの切れのある捌きようをこなせる腕前は、
見るものが見れば足捌きや目線のさえを見ただけでも判ろうに、

 「たかが小娘が生意気なっ。」
 「畳んでしまえっ。」

とある商業ビルの地下駐車場の一角から 隣のビルの敷地の隅へ、
許可も出さずの こっそりと、拡張&延長されてた地下通路。
その筋の監視どころか自社ビル内の防犯カメラも届かぬ、
完全盲点状態の極秘経路とし、
一味が集めた盗品を港や空港近くの配送先まで
痕跡残さず運び出すのに重宝してるの 嗅ぎつけたのが、

 「盗っ人猛々しいのはどこのおじさんでも変わりありませんね。」
 「まったくです。」
 「……。(頷、頷)」

毎度お馴染み、
今は微妙に 半日ほど身が空いてる期間中の
某女学園が誇る三華様がた。

 “何ですか、そのお言いようは。”

睨まれたけど ホントの話だし。(苦笑)
発端は、そんな身なのをいいことに、
いよいよ週末に迫ったバレンタインデー向けの
催し物やフェアのハシゴをしていた折のこと。
自分たちと同じよに、ウキウキわくわくと
お買い物をしに来たのだろう無辜のお嬢さんたちを、
暇つぶしか それとも縁のないイベントへのやっかみからか、
恐喝半分、言い掛かりをつけて連れ込んだのだろ地下の駐車場。
何なら俺らの相手しろよと
押し倒しかねない突っ掛かりようをしていた青二才数人。
そんな成り行きに えいやっと投げ飛ばして追い払ったところが、
ややこしいところへと逃げ込んだ。
地下駐車場の一角から、煙のように消えたのが不思議だったので、
ならばと ひなげしさんが自慢の腕前駆使し、
ビル内の防犯カメラを浚ったが、それでも追えぬは不可解の極み。
一体どんな怪談?という“都市伝説”になるところ、
この人たちには却って闘志を燃やさせる燃料投下になっちゃったようで。

 “振り込め詐欺の受け子や、
  ちょっとした騒ぎを起こさせて尾行を撒くときの要員だったとはねぇ。”

そういう子飼いの青二才らが、
自分たちも要領よく使っていたのが 今回は徒になったという次第。
結構大掛かりな窃盗だのそういう物品の取引だの、
ともすりゃ いけない薬品の受け渡しをもこなす一味が
ここ一番で鮮やかに追っ手を煙に撒くのに使って来た
人をも逃がす“隠し通路”らしいと判り、

  しかもしかも、
  何だか理不尽な格好で奪われた秘蔵品、
  そこを使って持ち出そうという企みを 知ってしまったものだから

そりゃあもうもう、
黙って見過ごす彼女らじゃあないというもので。(こら)

  此処を通すわけにはいきませんと

車高のある大型車も通過出来そうとはいえ、
駆け回るには ちと足りなかろう幅しかない。
常夜灯のみが照らす、薄暗くも埃っぽいそんな空間へ。
行く手を遮るようにと立ち塞がったのが、
十代そこそこの少女らだと見るや。
そこはそちらにも疚しさあったればの用心か、
重たげなコンテナを乗せた大きな台車を押してた手勢や、
周辺を取り囲んでいた黒服らが わらわらわらと、
主人と荷を守る盾となるべく、
前へと出て来てお嬢さんらへ掴みかからんとしたけれど、

 「哈っ!」

そこは そうはいないが知る人ぞ知る(笑)
ほぼ負け知らずの私設防衛隊三人娘なだけに。
特に打ち合わせをしたでなし、
それでも的確に陣営を設けて動き出すところが何とも鮮やかで。
寒さも見越してのこと、
それでも軽量特殊素材仕立てで動きやすいスキーウェアにて、
すらりとした肢体を覆いしお嬢さんがた。
まずは、紅ばらさんが、
ぐんと膝を折り バネを溜めたのも一瞬のこと。
足元にて じゃりと砂を踏みにじった音だけ残し、
防御とマスクを兼ねたゴーグルの上に金の前髪はためかせ、
ひゅんっと飛び出したそのまま、

 「が…っ。」
 「ぎゃあっ。」

向こうも飛び出しかかってた前衛の数名を
特殊警棒の一閃で、あっと言う間に左右へと薙ぎ払っており。
そんな彼女を見送った第二陣、
やはりゴーグルをはめた細おもてをきりりと引きしめた白百合さんも、

 「たぁ…っ!」

自身の身長と同じくらいはあろう長い得物を振り切って、
しなう幅さえ有効に見越し、
そっちも警棒を振り上げて突っ込んで来た二人ほど、
まだまだ全然届かぬうちに
“ぱしり・ぱっしん”と左右へぶって張り倒してやる。
他でもない自分の仲間が見事に薙ぎ倒されたのを見切ってから、

 「こんの…っ!」

次の手合いが“間合い”の中へと飛び込んで来ても動じずに。

 “得物が間に合うまいと見くびりなさんなvv”

軸足でしっかと地を踏みしめ、
長い御々脚をバランスよく振り上げて。
そこが頂点へ至るよう
こちらも勢いよくぶん回した足の裏にて容赦なく、

 「呀っ!」

ばぎゃりと 相手のニキビ跡だらけのひねた顔を、
蹴り飛ばしている白百合さんの勇ましさよ。
無論、そんな躍動に満ちた所作一連、
目まぐるしきままに躍った末、収まっての“直れ”とばかり
最初の姿勢へ難無く戻るところがまた小癪でもあり。

 「く…っ。」

ただのお嬢さんがたがこんなところに出て来はすまいと、
そのくらいは怪しみもしていたものの、

 「きさまらっ!」
 「一体 何者だ…っ。」

腕の振り出しようのみで長さを調節しつつ、
寄せてくる輩どもを片っ端から警棒で薙ぎ倒す、
くせっ毛のお嬢さんの冴えのある機敏さといい。
何かしらの舞踏でも演じるように華麗に長い棹を振り回し、
飛び込もうとする輩どもを、結果としてじりじり後じさらせている
槍の名手らしい
お嬢さんの肝の座りようといい、

 “こうまで場慣れしているとは…。”

必死のへっぴり腰でもなければ、
一本気からの一気呵成でも無さそうだと、
護衛の顔触れのうち、古株格が気づいたようで。
覚悟の上の行動でも、どこかに恐れが居残るような、
勢いが止まればそれでほころび、
あとは脆弱さが吹き出して総崩れとなるよな
“素人の特攻”ではないと見切ったらしく。

  「……。」 「……。」

そのまま 視線だけでのやり取りを交わす。
視線を投げられた後方の側が、やはり視線で頷くと、
懐ろに手を入れ、
武骨な手には玩具のように見えそうな小型の、
それでも正真正銘 恐ろしき飛び道具を素早く取り出す。

 「な…っ。」
 「…っ!?」

そのままなめらかな所作にて構える様子が、
見て取れたが動作では間に合わぬと、察せられたからこそ憎々しい。
それほど広い空間でなし、何より味方の陣営も入り乱れる中だというに。
よほどに精密な腕前を信頼されている輩か、
そんな危険なブツを携帯し、しかも目配せ一つで使おうとするなんて。

 『そうそう完璧なプランだのセオリーだのを習得し、
  常に冷静にそれを順守する連中ばかりじゃあないのだ。』

事後に逃げることを念頭に入れず、
人の多い中で標的に掴みかかり、
変装していた護衛にあっさりお縄になる馬鹿もいる。
素人では弾圧に振り回されるような、
そんなおっかない威力の武器だというに、
ただのマシンガンだろうと不用意に撃ってみて
自分も吹っ飛ばされ、壁へ叩きつけられる奴もいる。
形式や定石に沿うた方が効率がいいと知っているのは究極のプロだけで、
現実では、そこが真の戦場でない以上、
不格好な突発事態のほうが多いに決まっていて…、

 「シチっ!」
 「シチさんっ!」

奥まった側の出口近くにいた平八が、
敵の側へと駆け出していた久蔵が、
せめて届けと声しか放てず、
それぞれに名前を叫んだ大事なお友達。
彼女自身も敵陣営の動きは広角的に把握していたが、
そちらもまた、油断というか まさかというか、
そんなものがここに出て来ようとは一遍たりとも思わなんだ、
そんな思いがけなさに面食らったのだろう。
一瞬と呼ぶにも足りぬ短かな刹那、

 「あ…っ。」

ああ、これが前世のサムライだった自分なら、
もっと俊敏に避けられただろうか。
当時よりもずっと動きやすいいで立ちでいるのにね。
緊張感は足りなかったかな、
いやいや、
憤懣という激しい起爆剤を抱えていた割には、
長柄を振る所作も、相手を見据えての体捌きも
それは冷静にこなせていたのにな、と。
そんなこんなが 意識の中漫然とぐるぐるし。
大好きなお友達の見ている前だ、
ごめんね怖いよねと謝る気持ちが沸いた瞬間、

 “あ、れ…。”

目許がじわりと熱をおび、
なのに胸の内へは するすると、
冷たいような寒いような何かが込み上げて。

 全部全部、ほんの一瞬の間に
 脳裏を駆けた想いの数々。

 どうしてこんな時こそ、
 勘兵衛様のこと思いつかないかなと
 そうと感じたのも…もしかしたらば

棒立ちになってた自分を
天から降って来た何かがすっぽりとくるんだその瞬間、
怖いという反射からだろうひくりと震えた身を
抱きしめてくれた雄々しい腕や、
間近になった人の匂いが、
間違いなくそのお人のものだったからなのか。

 「……え?」
 「…っ!」

間に合わぬまでもと身を転じ、
その余波でも ばき・ごきりと何人か薙ぎ倒した久蔵や、
何なら特別設置しといたスプリンクラーを稼働させるよと
手にしていたタブレットを放り出し、
そちらも駆け寄りかかった平八の視野の中。
どこに潜んでいて飛び出したのか、

 もしかして
 平八の傍らを凄まじい勢いで駆け抜けた何かが
 その“彼”だったのか

飛び掛かっての、だが、
姿勢を下げるだけの暇間はないまま、
盾になる格好で懐ろに掻い込んだ七郎次をだけ庇っての仁王立ち。
どこにか当たったか、
ぐうとこらえた息や 筋骨の震えが届き、
守られた少女が ああと新たな感慨に口許たわませ涙をこらえた。

 「…勘兵衛さまっ!」

遅ればせながらに聞こえた感のある、
乾いた銃声にかぶさって、
七郎次の悲鳴が、弾けるように通路いっぱいに響き渡り。
膝から頽れ落ちもせず、立ったままでいた彼だけれど。
濃色のコートだから判りにくいが、
埃っぽい中につんと漂う、鉄のような匂いは紛れもなく、

 「案ずるな。
  まずは儂が説教してからだ。」

 撃たれたお人が、常と変わらぬ響きのいいお声で囁いて。
 庇われたはずの乙女が、こらえ切れずに涙して。

そんな一連の奇跡が
起きたのを見澄ましてという、
いいといや いい間合いにて。

 「もうもう天辺来ましたっ!」
 「……っ。(頷、頷)」

平八の声へと呼応して、久蔵が構えた特殊警棒へ、
空間を途切って飛んでったのが…青白い電光一閃。
持ってる本人はラバーという非電動体に守られていたものの、

 「哈っ!」

そこへと綿飴を手繰ったように搦め捕った電撃の素。
えいやと相手側の中核を目がけて ぶんと放れば、

 「ぎゃああっ!」
 「ひぃいっっ!」
 「し、死ぬ、誰かっ!」

日頃は風にも当たらぬような扱いに慣れているせいもあったのだろう、

 「ちょっとした静電気レベルの電圧なんですけれどもねぇ。」

 「…それでも唐突に襲われたら驚くよ。」

第一、それを見越した武器なんだろうしと、
外から開いた扉から続いて顔を出した格好の
佐伯刑事が呆れたのは言うまでもなかった、
相変わらずに突拍子もない大騒ぎの顛末だったのでありました。



     ◇◇◇



 『ちゃんと通報したじゃないですか。』
 『……っ。
  (なのに、いつまでも現れない。)』

ホントは全部、大人、しかも警察へ預けて、傍観する気でいたの。
でもね、直前になって、ちょっとばかり彼女らの側での事情が変わった。
本人さえ真の価値を知らないでいた、
祖母の形見だからと大事にしていただけの小さなロザリオ。
ところがところが、
とある名家の蔵物だったものと、
同じ時代・同じ職人の手になる品物でもあって。
そちらをうっかり…実は売り飛ばしてか、
紛失したことが発覚したらしく。
表向きへ露見すれば、家柄のうちの序列から外されかねぬと
青くなってた筋からの依頼があってのもの。
強引にも程がある因縁つけの挙句に、
毟り取るよに奪っていったやり口が許せぬと、

 「一味の仲間だった手合いを覚えていたそのまま、
  現場まで来てしまったその上、
  警察の監視への配置も無さそうなのへ気がついて。
  もっと大きな事案にならねばと、
  膨らむのを待つ態勢なんじゃなかろうかと案じたんだね。」

 「…はい。」
 「……。」

悪事には違いないのに、
そんな瑣末な案件で小さな罰を与え、
手飼いの小物を
差し出させるんじゃ収まらぬとし。
まあまあ我慢してと、
こっちへの沈黙という無理を強いる例が無いではないとか。
そういう事情も知っていたからと飛び出しちゃったお嬢さんたちへ、

 “いろいろと通じてるってのも考えものだよねぇ。”

本当はそういう特別扱いもいけないことだが、
彼女らはあくまでも 趣味で動画を撮影していたら、
思いがけなくやって来た人がいて驚いただけ。
知られずな場所なのに人が居たことへと殺気立った大人に怯え、
必死で逃げ出そうと抵抗しただけだと。
言われてみれば
そうとも解釈…出来るような出来ないような。
何が何やらだった修羅場だったもの混乱していたってしょうがないと、
いつもの苦しい言い訳を持って来て差し上げ。
大人の護衛の方々のメンツも考えてやったんだからと、
暗に貸しをこさえてやった方向で丸め込み。
未成年のお嬢さんたちへ余計な前歴がつかないよう、
今回 必死で粘ってくださったのは佐伯さんで。

  そして…

それを言ったら 自分もまた
打ち合わせになかった行動を起こした手前、
怪我をした人は戦線離脱してくださいねと征樹に言われても従うほかはなく。
それもあってのこと
入院するほどではないと、
肩からの摘出手術をしたばかりの身を寝台から起こしかかるの、
必死で制した顔触れの一人。
看護師さんに混ざってた、
見覚えがあり過ぎる色白な細おもての懸命な形相に絆されて、
大人しく横になっていた勘兵衛だったが、

 “泣くのは ちと狡くないか?”

負傷した箇所を庇う格好で横になっていたものだから、
寝台の傍らに椅子を寄せ、
腰掛けている七郎次のお顔から
今更 視線を逸らすのも白々しくて。
今は何とか泣きやんだのか、涙も止まっているけれど、
玻璃のような双眸を真っ赤に染めていることや
いつも淡雪みたいな深みのある白をたたえた頬が真っ赤なのだ、
察しがつかぬほど阿呆でなし。

 “……。”

ほれ、知人が怪我をしたらば そうまで辛いのだぞと
つや消しなことを言っていい間合いとも思えぬし、
さりとて、
あんな危険な場にいての活劇ぶりを、大人として叱らねばならぬのは明白だし。
困ったなぁと深色の目許を細め、

 「…泣くでないよ。
  それでは、儂が助けた意味がなかろ。」

響きのいいお声で、
そんな罪な一言囁いたものだから、

 「……っ。」

白百合さんがまたぞろ目元をうるませてしまい、
事情を知る顔ぶれにはやれやれと苦笑させ、
そうではない病院のスタッフ様たちには、
一体どういう間柄のお二人かと、きょとんとさせるばかりだったそうでございます。




    〜Fine〜  15.02.09.



  *ちょっと尻切れトンボなので、
   続きというか付け足すかもです、すみません。
   それにしても、確か勘兵衛様、
   前にも一度 銃撃されてなかったですかね。
   書いた本人が曖昧なほど、
   気がつけば このシリーズばっかり書いていて、
   そもそも一体 何の二次小説なのかも
   怪しくなって来つつありますが。(まったくだ・笑)
   そろそろ賞金稼ぎのお二人のお話も書きたいなぁ。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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